このセクションでは、情報の出所から考えて簡単に無視することができない、ちょっとびっくりするかも知れない情報を取り上げました。
1980
年代はじめに放映されたテレビシリーズ「コスモス(Cosmos)」で世界的にその名を知られた天体物理学者、故カールセーガン博士(1934〜1996
年)はマリファナの愛好家でした。存命中は一般には公表していなかったようですが、ハーバード大学医学部精神医学教授のレスター・グリンスプーン博士
(セーガン博士の30年来の友人で、マリファナの解放を推進するリーダー的存在)が1971年に出版した「Marijuana
Reconsidered(マリファナ再考)」という本に「Mr.
X」という匿名で自分のマリファナ体験を語ったエッセーを寄稿しています(全文こちら
)。
このことは、1999年にあいついで刊行された同博士の伝記の中で初めて公にされたのですが、アン・ドリュアン夫人も、この「Mr. X」の記述を伝記に盛り込むことに異存はなかったといいます。ドリュアン女子は「(セーガン博士は)マリファナの使用を一切恥じるところがなかったし、おそらくMr. Xの正体もいずれ明かされる日が来るとも思っていたでしょう」といっています。
マリファナが仕事に役立つと考えたセーガン博士
セー
ガン博士は、マリファナによって創造的な洞察力が高まると考えていました。レスター・グリンスプーン博士は、1980年代のある日、とても良質のマリファ
ナをセーガン博士とドリュアン女子とで吸ったときのことを回想しています。吸ってからしばらくすると、セーガン博士はグリンスプーン博士にこういったそう
です「レスター、最後に1本しか残っていないのは分かっているんだけど、それを譲ってもらえないかな。実は明日とても重要な仕事が入っているので、ぜひ吸
いたいんだ」。
マリファナが仕事に重要な役割を果たすとセーガン博士が考えていたことは、「Marijuana Reconsidered」のなかの「Mr. X」の抜粋からも読みとることができます。
私 がハイになっている状態で得られる洞察は、社会的問題に関連するものがほとんどで、これは私の専門と一般的に考えられている学術分野からはかなりかけ離れ ています。ある時、こんなことがありました。ハイになった状態で妻とシャワーを浴びていると、人種差別の起源や無効性について、ガウス分布曲線に基づいて 考えるアイディアを思いついたのです。それはある意味で至極当然のことのように思えましたが、実際にそのような観点から議論している人はいませんでした。 私はシャワー室の壁に石けんで曲線を描き、シャワーを出てからそのアイディアを書き出していきました。アイディアは次から次へと連鎖的に出てきて、1時間 ほど夢中で書き続けた結果、社会、政治、哲学、人間生物学などの分野に及ぶ小論文を11編書き上げていました。紙面が限られているので、ここではこれらの 小論文の詳細には触れませんが、一般読者の反応や専門家からいただいたコメントなどを総合すると、これらの小論文で私が記述した洞察の中には当を得たもの もあったと考えていいようです。その後は、大学卒業式での講演、講演会、そして著書などにもこれらの洞察を盛り込んでいきました。
マリファナが人のやる気をなくすと主張する人も一部にいますが、グリンスプーン博士は、セーガン博士の生き方はこれを反証するものだとして、次のように語っています「カールは仕事をすること、そして世の中に貢献することに関してはやる気に満ちあふれていました」。
人と薬物の関わりを科学の目で見たセーガン博士
さらに、セーガン博士は「Mr.
X」のエッセーを次のように締めくくっています:
(マ リファナの場合)一回に吸い込む量はきわめて少なく、吸い込んでから効果を自覚するまでの時間も短い。しかも、いったんハイになると、もっと吸いたいとい う気持ちにはなりません。そこで、摂った量を知覚した時点から、摂り過ぎになってしまうまでの時間の比率「R」が重要な意味を持ってくると私は考えていま す。私はLSDは摂ったことはありませんが、LSDのR値はとても大きく、カナビスでは小さいのです。向精神薬物の安全性を考えるとき、このR値を安全性 の判断基準の一つにするべきです。カナビスが合法化された暁には、パッケージにはこの数値を表示してもらいたいと私は考えていますし、合法化もそう遠くな い将来に実現することを願っています。カナビスを違法としている現在の状況は常軌を逸しています。この状況は、ますます狂暴化し、物騒になりつつある世の 中にあって、私たちにとって何としても必要な心の静穏、洞察力、人を思いやる気持ち、そして共同体意識を生み出す薬物(マリファナ)をフルに活用する妨げ になっているのですから。
マリファナ合法化が実現した暁のパッケージの安全表示に言及するところなど、さすがというしかありませんね。
カール・セーガン博士の伝記:
英国のランセット誌(The
Lancet)はアメリカのニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(The
New England Journal of
Medicine)と並び、世界の医学界で双璧を成す医学誌です。
1995年11月11日に発行されたランセット誌第346号に掲載された論説記事は「カナビスの喫煙は、長期に及んでも健康に有害ではない」という書き出しで始まっています。長年の間カナビスの合法化
、もしくはせめて非犯罪化を求める声が世の中で高まってきているにもかかわらず、この問題が依然として多くの物議を醸していることを指摘し、オランダの非犯罪化政策を「正気なやり方」と評価しています。
さらに、現場で働く人たちの間でも禁止政策に対する反対の声が高まっていることを指摘して、次のように記述しています:
現 在実施している政策が効果を上げておらず、機能していないということを十分承知している警察署長クラスや各都市の医療担当者などが法の改正を求めているば かりか、建設的な提案も行っている。
マリファナ禁止政策は政治の所業
その一方で、マリファナの非犯罪化を話し合うことを提案した国会議員が袋だたきに合ったり、オランダでもドイツ、フランス、スペインから薬物法を強化するように圧力がかかるなど、問題の根元は政治にあると次のように厳しく批判しています:
政 治をさておけば、カナビスを非犯罪化してどのような被害が生じるというのだろうか?消費者の健康には無害であり、禁止政策なしには資金が稼げなくなる犯罪 組織にとっては大きな打撃になることだろう。しかし、所持の非犯罪化だけでは不充分だと我々は考えている。非犯罪化にともなって、タバコなどと同じように製造元、流通、 宣伝広告を管理監督する必要がある。つまり、オランダのコーヒーショップ制度にきわめて近い制度を導入するべきである。
そしてこの記事の最後にはこう書かれています:
遅かれ早かれ、政治家たちは逃げ回るのをやめて、事実 − つまり危険なのはカナビスそのものではなく、それを地下に潜伏させてしまうことであるという事実 − と向き合う必要がある。
この論説記事は当時大きな反響と批判を呼びました。医学界に占めるランセット誌の位置づけを考えれば当然といえます。
マリファナは酒やタバコより健康被害が少ない
その3年後の1998年11月14日に発行された第352号では、カナビスの有害性を調べる調査の結果が掲載されました。その号の論説でこの調査に触れ、95年の見解にわずかに修正を加えて次のように述べています:
3 年前の論説の書き出しは、もう少し人を刺激しない文章にするのが賢明だったかも知れない。しかし、今回の調査結果から判断すると、カナビスはアルコールや タバコよりも健康被害が少ないと考えるのが妥当である。承知のように、アルコールやタバコは多くの国で容認され、宣伝広告が行われているばかりか、税収源 としても役にたっている。
さらに・・・
気分を変える物質を摂取したいという欲望は世界中の人間社会に、どの時代にも見られる特徴であり、厳格な禁止政策をもってしてもこの欲望を消すことはできていない。[中略]このような法律は問題を解決するのではなく、別の問題を生じさせるだけである*。
* 例えば、時は下って今年(2006年)の3月、国連の国際麻薬管理委員会(International Narcotics Control Board)が2005年1年間の全世界の薬物問題に関する報告書を発表していますが、アメリカではカナビス、コカイン、エクスタシー(MDMA)の使用 者が「特に十代を含む青少年」で減っている一方で「処方薬 − 特に鎮痛剤 − の使用が若い成人の間で増加している」とし、アメリカでの薬物の使用率全 体が依然として極めて高いことを指摘しています。
そ してこの論説の最後を次のように結んでいます:
当誌が3年前に述べた見解には但し書きを付けることにする。つまり、医学的な証拠を検討した結果、カナビス を節度を持って使用する限り健康被害はわずかであることから、カナビスの禁止や合法化については他の観点から議論するべきである。
「医学的にはほぼ問題がないので、他に議論があるのだったら、さっさとそれを話し合って結論を出してください」とでもいいたげです。この問題を ある程度冷静に調べれていくと大半の人があきれかえりますが、これを書いた当時のランセット編集部もそのような気持ちだったのかも知れません。
そして10年後
ラ
ンセット誌の最初の論説記事から10年後の2005年には「規制を設けたうえでの薬物の合法化」を支持するデビッド・キャメロン氏がイギリス保守党の党
首に就任しています。選挙戦では大学時代の薬物使用が取りざたされながらも、袋だたきに合うこともなく選出されています。少なくともイギリスでは時代が少しずつ動いているようです。
カナビスは完全に無害ではない
ここで断っておかなければならないことは、ランセット誌ではカナビスが「完全に無害」とはいっていないということです。「節度」を持って使用すれば「アルコールやタバコ」よりは有害性が少ないといっています。こう考えると、カナビスは「完全無害」ではないものの「個人や社会がうまく付き合っていけるもの」と考えるのも、それほど不自然なことではないでしょう。
イギリスの政治・経済専門誌、エコノミスト
誌(The Economist)は長年一貫して違法薬物の合法化を唱えてきています。こんな権威のある雑誌が薬物の合法化なんていう、一見とんでもないことを唱えるのはなぜなのでしょうか?
こ れを説明する前に断っておかなければならないのは、エコノミスト誌では「そんなものやる人がいけないんだ」という立場はとっていないということです。長年 禁止政策が敷かれてきたにも関わらず、各国には依然として薬物の使用者は大勢います。つまり「薬物があり、それを使用する人がいる」という現実が出発点に なっています。
世界の二大医学誌の一つであるランセット誌でもマリファナに関する記事の中で「気分を変える物質を摂取したいという欲望は世界中の人間社会に、どの時代にも見られる特徴であり、厳格な禁止政策でもこの欲望を消すことはできていない」と言い切っています。また余談ですが、薬物を使用して陶酔したいという傾向は、進化に有利な特徴として残っていった可能性がある とする研究者もいます。
さらには、薬物によって違いはあるものの、大半の薬物使用者は普通に生産的な生活を送っていて、職を失ったり、破滅的な人生を送る人の割合は一部だという現実を認識したところからエコノミスト誌の合法化の話は出発しています。
2001年にエコノミスト誌に掲載された記事「The case for legalisation 」では、2つの理由を挙げて薬物を合法化するべきだといっています。
合法化を提唱する第一の理由
ま
ず第一の理由は原理原則です。その原理原則というのは約150年前、イギリスの自由主義哲学者ジョン・スチュアート・ミルが提唱したことで、人が自分に危
害が及ぶような行為をしても、他の人や社会に危害を与えないかぎり、国にはその行為をやめさせる権利はないという考え方です。
同誌は「人は自分、自分の身体、そして自分の心の主権者である」というミルの有名なことばを取り上げ、「我が誌は一貫してこの考え方を信奉しきている」と記事の中でいっています。
この原則はべつに突飛な考え方ではなく、大半の民主主義国家ではこれを基に政策が決定されています。例えば、登山、オートバイの運転、喫煙、飲酒、バンジージャンプなどの危険行為については、他の人に危害を与えない限り、国家は寛容な立場をとっています。
こ れが1つ目の根拠です。つまり、人に迷惑をかけない限り、自分に危害が及ぶようなことをするのは自由だという原則です。同誌ではこの第一の理由の説明を次 のように締めくくっています「(このような危険行為をすれば)保険会社や母親は戦々恐々とするだろうが、国家はきわめて寛容である」と。
第二の理由
第二の理由は、実利的に考えて合法化したほうがいいということです。つまり、薬物を禁止し続けることによるデメリット、そして合法化することによって得られメリットを天秤にかけてみた結果だということです。
禁止政策の最大の問題は、薬物の取り引きがすべて地下に潜ってしまうこと、いわゆるブラックマーケット化してしまうことです。そうなるとさまざまな弊害が起こってきます。
ま ず、薬物の取り引きを犯罪組織が扱うようになります。これはその昔、アメリカの禁酒法時代に巨大なギャング組織が暗躍したのとまったく同じ構図です。そう なると、当然「品質管理」も行き届きません。薬物そのもの以上に危険な混ざりものが入っていても分からなくなってしまいます。(禁酒法時代はメチルアル コールの被害が多発しました)
また、禁止されていると、使用者に適切な教育を実施することができなくなります。さらには、注射針の使い回しなどでAIDSなどの感染症が蔓延する原因にもなります。
逆 に、たばこやアルコールなどと同じように、適切な規制を設けて合法化すれば、上記の問題は大方解消されます。一定年齢以下への販売の禁止、販売店の免許 制、広告の禁止、運転中の使用の禁止など、規制を設けたうえで販売できるようにすれば、まず組織犯罪を排除することができます。
さらに、薬物を使用する人に安全な使用方法を教育することもできるようになります。(被害軽減の説明もご覧ください)。そして当然、薬物に課税できるようになります。その他に、警察力、裁判所、刑務所などにかかっている大きな社会負担を軽減することがができ、警察はもっと凶悪な事件に資力を割り当てられるようになります。
「The case for legalisation」の記事は次のように締めくくられています:
合 法化は一筋縄ではいかないが、政府の役割は、第一に手に負えない薬物使用者が他の人に危害を与えるのを防ぐこと、そして第二に規制を設けて最低限の品質と 流通の安全を確保することである。前者は警察がすべての薬物使用を取り締まるのに時間をとられている間は難しく、後者は薬物が違法である限り不可能であ る。薬物使用の危険性を、アルコールやたばこの使用と同レベルにするには合法化が最善の策である。そして、社会はこの2つ(酒とアルコール)の悪習に寛容 であるように、薬物を販売、使用する人にも寛容になるべきである。
1998年、国連:
この年の6月初旬、国連の薬物問題特別総会(United Nations General Assembly Special Session on Drugs [UNGASS])の開催に合わせて、世界各国の500人以上の有識者が署名したある書簡が国連のアナン事務総長宛てに届けられ、New York Times紙上で公開されました。ハヴィエ・ペレス・デ・クエラル元国連事務総長、ジョージ・シュルツ元アメリカ国務省長官、ノーベル経済学賞受賞のミルトン・フリードマンなどが署名者に名を連ねたこの書簡は、今や世界規模で展開される対薬物戦争(薬物を掃討するための戦争、薬物禁止政策)を非難する内容で、その中にはこう書かれています:
世界規模の対薬物戦争は、もはや薬物乱用そのものよりも大きな被害を引き起こしていると私たちは考えます。
さらに・・・
薬物関連の被害を軽減するには、各国内、そして国境を越えて共にこの問題に立ち向かっていく他に選択肢はありません。この問題の解決に向けて、国連には正当かつ重要な役割がありますが、国連がその役割を発揮できるのは、あくまでこれまでの政策の成功や失敗を問いただすという厄介な作業に取り組み、これに対処していく意志を発揮したときだけです。
と国連の役割や責任についても的確に指摘しています。
禁止政策の弊害
対薬物戦争を長年継続してきた結果、違法薬物産業の総収益は当時の国連試算で世界貿易の8%に相当する4兆ドル(460兆円)に達していました。これにより誕生した巨大犯罪組織のせいで各国政府のあらゆるレベルで腐敗が横行し、社会不安、暴力事件の多発、道徳観の歪曲が生じていると訴えています。しかし、これらの問題も薬物の使用そのものによって生じたものではなく・・・
何10年も続けられてきた無益な対薬物戦争(薬物禁止政策)の失敗が引き起こした結果である。
・・と断じ、書簡の最後をこう結んでいます
現在の薬物政策について開かれた議論や厳密な分析を行い、今とは違う方策を真剣に考えていこうとする人たちが、往々にして(薬物問題に)「屈伏した」と非難されることがありますが、恐れと惰性とによって議論を封じ込め、厳密な分析を抑圧し、現在の政策に代わる方策をすべて退けることこそが、本当の意味での屈伏だと私たちは考えます。事務総長殿、世界の今後の薬物管理政策について、恐れや偏見、そして懲罰的な禁止政策によってではなく、常識、科学、公共保健、そして人権に基づく新しい、真に開かれた、正直な対話を開始するようお願いいたします。
この書簡の署名者は、次のような人たちを含め合計500人以上に上ります。
元国連事務総長、ハヴィエ・ペレス・デ・クエラル
元アメリカ国務長官、ジョージ・シュルツ
スコットランドヤード(ロンドン警視庁)麻薬取締班
元アメリカ公衆衛生局長官、ジョセリン・エルダース
経済学者、ノーベル経済学賞受賞者、ミルトン・フリードマン
判事:40人
警察官:8人
ジャーナリスト:10人
弁護士:12人
大学総長:10人
各国の元首相や元大統領:6人
各国の現職閣僚:6人
各国の元閣僚:19人
各国の現職国会議員:34人
各国の元国会議員:5人
ノーベル賞受賞者:11人
オリンピック金メダル選手:2人
(すべて当時)
書簡原文:http://www.drugpolicy.org/global/ungass/letter/
署名者一覧:http://www.drugpolicy.org/global/ungass/sigs1/